最終更新: 2019/2/6
@tk
§0 記号について
本講座で用いる記号 (notation) についてここでまとめておきたいと思います。最初に通して読むのではなく、必要に応じて適宜振り返って参照していただければ十分です。どれも一般的な記法ですので、必要に応じて他の文献もご参照いただけますと幸いです。
論理記号
- は「任意の」という意味です。例えば は「 から までの任意の自然数 」を表します。文脈から明らかな場合は を省略する事もあります。
- は「存在する」という意味です。例えば が成り立ちます。即ち「 以上 以下のいずれの整数についても、それを二乗した値は 以上 以下のいずれかの整数値と等しい」という事です。 のように書く事もあります。s.t. は such that の略です。
- は「ならば」という意味です。例えば です ( や は ≧ や ≦ と同じものです)。
集合
- 自然数全体の集合を と書きます。ここでは には を含めない事とします。即ち .
- 整数全体の集合を と書きます。 が成立します。また で 以上の整数全体の集合を表します。
- 有理数全体の集合を と書きます。 が成立します。
- 実数全体の集合を と書きます1。
- (本講座においてすぐには出て来ないかもしれませんが) 複素数全体の集合を と書きます。 です。これを と書く事もあります。なお は虚数単位、即ち「二乗すると になる数 (虚数)」です。 の事を と書く事もあります。
- を集合とする時, 「 が の元である」事を と表します。「 が の元でない」事を と表します。
- 集合 に対して が成り立つ時に は の部分集合であると言い、 または と書きます2。
- で の補集合を表します。補集合を与えるためには全集合を定めなければなりませんが、例えば を の部分集合と見る場合には です。
- を集合とする時 (簡単のため、これらは の部分集合としますが、それ以外の場合でも同様です)、 ここで は でなくとも定義出来る事に注意します。
- 実数 に対して以下の様に定義します ( と の大小関係によっては空集合となる場合もあります)。 これらの集合の事を区間と呼びます。特に は開区間、 は閉区間と呼ばれます。 や を半開区間または半閉区間と呼ぶ事もあります。
- 集合 に対して、 次を満たす実数 が存在する時、 を の最大値 (最大元) と呼び と表します。 最小値 (最小元) も (存在するならば) 同様に定義され (上の式の を に置き換えます)、 と表します。最大値や最小値は常に存在するとは限りません。例えば開区間には最大値も最小値も存在しません (本講座の中でいずれ扱います)。
数列・点列
- 自然数 によって番号付けられた実数あるいは複素数の連なり の事を数列と呼び、 や 等と表します。より一般の空間 の場合、 で番号付けられた の元 を点列あるいは単に列と呼びます。 からではなく から初めて を考える事もあります。 の動く範囲が明らかな場合は単に と省略して表記します。
- 実数列 (実数値の点列) は、その並びの順番を無視すれば集合 と同一視する事が出来ます。その意味で、「 が全て -値である」事を表すために単に と表す事があります。同様に、一般の (空間 に値を取る) 点列 と に対して とは あるいは同じ意味ですが である事を意味します。
- すぐ下で述べる写像の言葉を使えば、点列 とは なる写像の事であると言えます。
写像・関数
- 集合 に対して、「 の各元 を に含まれる何らかの元」に対応させるもの ( という記号で表す事にします) を写像と呼びます。この場合、 と表し、「 に対応する の元」を と書きます。これらをまとめて と表します。 とは と同じ意味と思って下さい。「集合から集合への写像」を表す際には という矢印の記号を用いますが、元と元の対応を示す場合には の記号を使います。
- 写像の事を関数とも呼びます。慣習的に、特に が や (またはその部分集合) である時に、 を関数と呼ぶ傾向があるようですが、明確な決まりがあるわけではありません (数学の分野によっても呼称が異なる場合があります)。
- が「 ならば 」を満たす時、 は well-defined であると言います。つまり、well-defined でないならば写像 (または関数) として定義出来ていないという事になるのですが、「ある関数 を作った (定義した) つもりになっていたが実は well-defined になっていなかった (即ちうまく定義出来ていなかった)」という事があるので、「定義したつもりになっている関数は本当に関数と言えるのか?」を確認するために、well-definedness という概念が必要となる事があります3。
- を の部分集合とし、 を関数とします。
その他
- に対して と書きます。
- , はそれぞれ和、積を表す記号です。例えば、 に対して となります。これらの記号はより一般の空間における無限和や無限積を表す時にも使われます。なお の時 (あるいはより一般に、空集合上の和や積を考える時) には , と約束します。
- 自然数 に対して の階乗を と定義します。また、 及び に対して二項係数を次のように定義します。 良く知られているように、次の二項定理が成り立ちます。 なお が自然数でない場合にも、Pochhammer 記号 を用いて一般化二項係数を次のように定義する事が出来ます。
- とは「 を によって定義する」という意味です。 も同じ意味で使います。
- と の値が近い時に と表します。また「正の数 の値が十分小さい」という事を表す際に と書きます。これらは厳密な数学の記号ではなく、日本語の文章で意味を説明するのと同様の「言葉」だと思って下さい。
直積集合 (空間) とベクトルについて補足
上で何気なく と書いてしまいました。これは 次元 Euclid 空間を表しており、その元は を用いて の形で表す事が出来ます。この とは一体何を表しているのでしょうか?幾何学的に見れば、 は -平面における 座標を、 は 座標を表していると言えます。一方で、集合論の立場からするとこれを写像として見る事も出来ます。同様に、 の元は として と書け、これは -空間における座標と捉える事が出来ます。
このように、 次元 Euclid 空間 や 次元 Euclid 空間 は平面や立体に対応しており、高校数学において幾何学的な解釈によって扱われていたと思います。 同様に、 を幾何学的に見ると数直線という 次元の世界が対応しています。
同様に考えると、一般の自然数 に対して 次元 Euclid 空間 を考える事が出来そうです。きっとその元は を用いて と書けるはずです。 高次元の Euclid 空間を幾何学的にイメージしようとしてもなかなか難しいと思いますが、このように「成分の数が 個である空間」と考えれば幾分取っつきやすいかと思います。なお、この集合と集合の掛け算 の事を直積と呼び、複数の集合の直積によって得られる集合 (空間) を直積集合 (空間) と呼びます。 また多次元空間 の元 の事をベクトルと呼びます6。
ところで、我々は数列 というものを扱う事が出来ます。これは、「 番目の値は , 番目の値は , , 番目の値は , 」といったように、一列に並んでいる数字達に対して順番に番号を付していったものです。この数列を 番目までで打ち切った有限列 を見てみると、これは 次元空間 の元 にちょうど対応している事が分かります。つまり、「 次元空間の元の第 成分を と書く」事にすれば、 は 個の実数からなる有限数列と同じものになっています。
さて、集合 に対して を「 なる写像 全体」と定義します。このルールに従って なる集合を考えてみると、その元は「各 に を対応させる写像」という事になります。写像や関数という見方をすると分かり辛くなってしまうかもしれませんが、この「 と を対応させる」という考え方は「 の元 の 番目の成分を とする」という状況に似ています。
実は一般に、直積集合とは上のように「対象とする集合に値を取る写像全体」といった形で定義されます。つまり、 を何らかの集合とした時 であり、また 各 に付随する実部分集合 に対して直積集合が として定義されます。 が有限集合でなくとも構いません。例えば という直積集合を考える事も出来ます。 ここまで来ればお分かりの通り、実は とは「実数列全体」を表す集合と同じものです。 そして とは実は と同じである事も分かりました7。
- を ( 次元の) Euclid 空間とも呼びます。一般に、集合 について何らかの性質や構造 (距離や位相等) を一緒に考える時に を空間と呼びます。↩
- “ が を満たす が を満たす” という命題は、集合の包含関係を用いて は を満たす は を満たす と書く事も出来ます。↩
- 「 が の複数の元に対応する」というケース (この場合 は多価関数と呼ばれます) を考える場合があるのですが、実関数の微分積分を考える上ではあまり気にしなくとも構いません。↩
- 「単調増大」という言葉は「単調非減少」と「狭義単調増大」のどちらの意味でも使われる事があり、ここでは誤解を避けるために基本的に「単調非減少」及び「狭義単調増大」という用語を用いる事にし、「単調増大」という曖昧な言葉をなるべく使わない事とします。単調減少についても同様です。↩
- が の右下にあったり真下にあったりしますが、これはワードプロセッサの仕様によるものであり、数学的には同じ意味です。↩
- 高校数学ではベクトルとは「長さと向きを持った量 (矢印)」が定義であったかもしれません。これもまた幾何学的直観的な概念であり、イメージを掴むためには重要な考え方ですが現代数学における一般的な定義ではありません。なおここでは Euclid 空間におけるベクトルしか定義していませんが、実はベクトルの定義はもう少し一般的に与えられます (線形代数において扱われるのが普通です)。↩
- 更に言えば、集合論の公理系 ZF(C) における 一般的な ( から始まる) 自然数の定義は , であり、その意味でも となっているのですが、ややこしくなるのでこれ以上の言及は控えます。↩
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