初等解析学 (微分積分学) 入門 §10

2018/11/17
@tk

§10 連続関数の性質 I

今回の目標は、分数冪関数や指数関数等、これまで話題に挙がった事のある初等関数を厳密に構成する (ための準備をする) 事です。そのためにまず、実数値連続関数に関するある重要な定理を示します。

 

中間値の定理

閉区間 上で定義された実数値連続関数 を考えます1。すると は、 の左端 においては という値を、右端 においては を返す事になります。 は連続なので、 のグラフは途切れる事が無く繋がっています。という事は、 の間に挟まれている全ての実数を、何らかの に対して という形で表す事が出来そうです。例えば以下の図では となっていますが、この の間にある 軸上の という点に対して、 上に という 2 点が存在して が成立していそうです。

これを数学的に厳密に述べるのが次の中間値の定理です。

 定理 1. (中間値の定理) とする。 上で定義された連続関数 に対して以下が成り立つ。
1. ならば、任意の に対して となる が存在する。
2. ならば、任意の に対して となる が存在する。

なおここではステートメントを 1., 2. と二つに分けましたが、これらを以下のように一行で表す事も出来ます。 の場合には は空集合となるので、この主張は意味を成しません (誤りでもありませんが)。

この定理の主張は、(直観的には) 関数のグラフが連続的に繋がっているからこそ成り立つ性質と言えそうです。しかし更に良く考えてみると、 の間の任意の を取った時、上図のように右側あるいは左側に線を伸ばして のグラフと交わったところで、 軸上に対応する「実数」 を見つけるためには、ここでもやはり「実数からなる閉区間 の上には実数がギッシリ詰まっている」という実数の性質を使わなければなりません。即ち、実数の連続性公理は中間値の定理において本質的な役割を果たしている、という事であり、実は更に中間値の定理もまた実数の連続性公理の一つのバージョンなのです。よって、中間値の定理の証明をするためには必然的に実数の連続性を利用する事になります。


定理 1 の証明. 1. のみ示せば十分。任意の を取り、集合 と定める。まず ゆえ は空でない。また であり、 は (上に) 有界だったので も (上に) 有界。よって が存在する。そこで、 であって となるようなものを取る2

は閉区間である事から である3。実際、もし でないとすると、 または である。 の時、(1) から に対して s.t. 即ち となるが、これは , である事に矛盾する。 としても同様に矛盾が導かれる。

以上の事と 上の連続性から が成立する。一方、 ゆえ であったので、 である4。(2) と合わせて を得る。

後は を示せば良い。もし であったとすると、上で示した事から となってしまい、 の取り方に矛盾するので、まず である事が分かる。そこで、任意の を取ると、 ゆえ でなければならない。そこで、, なる (狭義) 単調減少列 を取ると5、再び の $c\in $ における連続性から である事が分かる。

以上より、 かつ , 即ち である事が分かった。なお、上と同様の理由により でなければならず、よって である。


なお、定理 1 の 2. を示すためには適宜符号を入れ替えて上と同様の証明を行えば良いのですが、より手っ取り早く示すために「 に対して定理 1 の 1. を使う」という方法も考えられます。

中間値の定理の重要な帰結として以下があります。

 系. (連続関数が定める方程式の解の存在) とし、 上で定義された連続関数 に対して ならば、方程式 上に解を持つ、即ち s.t. .

条件 とは「 はどちらも でなく、かつ符号が互いに異なる」事を意味しています。よって または であるので、 に対して中間値の定理を適用出来る、という事です。但し、上図の例の の例からも分かるように、この系が保証しているのは「解の存在」だけであって、解の一意性、即ち「解がたかだか一つしかない」かどうかは何も保証していない事に注意して下さい。

もう一つの注意として、中間値の定理が適用出来るのは が有界閉区間である時であり、 のような場合には直接使えない事に気を付けましょう (勘違いしてしまう人が多い落とし穴です)。この問題については に対する関数の極限の概念を定義してから改めて見てみる事にします。

中間値の定理の簡単な応用として、§7 に登場した具体例 を考えてみます。即ち、各 に対して を (3) によって well-defined に定められるか、という問題です。

所与の に対して とおくと、 かつ なので、中間値の定理により を満たす が存在する事が分かります。本当は更に「(3) を満たす は唯一つ」という事を示さなければなりませんが、これは次のようにして直接示す事が出来ます。もし が共に (3) を満たす場合、(3) において に置き換えたものを (3) 自身から両辺引いてやれば となり、((3) は では成立し得ない事に注意して) である事から 即ち が得られます。

実は、関数 の単調性に注意すれば、上のような計算をしなくとも の一意存在をすぐに示す事が出来るのですが、そのためにはもう少し準備が必要です。

 

関数の値域と全射性・単射性

実数値関数とは、所与の定義域 における任意の点 を何らかの実数 に対応付けるものでした。

ところで、§9 の最後で触れたように、指数関数は実数値関数の一つであるものの、実際には指数関数の値が または負の実数になる事は無く、常に正の値を取るのでした6。すると、関数の行き先の空間を 自体ではなくその部分集合 に置き換えても良さそうです。即ち あるいは と言った具合です。

同様に、 が偶数の時には は常に非負値となるので、 と書くのも良さそうです。勿論 と書いても良いのですが。

これらの例のように、関数 の行き先は必ず に含まれていますが、実際には任意の実数値を取るとは限りません。, が取り得る全ての値を集めた集合 値域 (range) と呼びます7

上の値域が になる事を確かめてみましょう。まず である事から が得られます。問題は、任意の に対して なる がいつでも取れるか否かです。

まず の時には である事から です。後は の場合を考えれば良いのですが、それには なる が取れる事を示せば十分です。やり方は色々と考えられますが、例えば Archimedes の原理から なる の存在が言えるので、 がすぐに得られます (つまり という事です)。よって中間値の定理を 上で適用すれば (言い換えると に対して中間値の定理を適用すれば) なる の存在が示されます (なお もまた を満たしていますが、今はこのような を一つでも取れれば十分です)。これで : , 即ち が言えました。

一般に、 として関数 を満たす時、全射である (surjective) と言います8。言い換えると という事です。上の具体例は が全射である事を意味しています。

ところで、 に対して「 であるような 」の存在を我々は (少なくとも高校数学の範疇で) 知っており、それは平方根 (及びその 倍) と呼ばれるものでした。これまでにも、上限の存在や Dedekind 切断の解説の際に、 を「集合 の上限」として扱われる事が仄めかされていましたが、上の中間値の定理の証明を見れば、(有理数と実数の違いはあれど) まさしく同じ方法で「 であるような 」が得られている事が見て取れるでしょう。

ところで、関数 が次の性質を満たす時に、単射である (injective) と言います9 対偶を取って とも言い換えられます。一言で言えば「 の任意の元に対して、行き先が同じになるような元は他に存在しない」という事です。

上の例 上で単射ではありません。実際、 に対して となる は常に二つ存在しており、 がそうなら もまた を満たしています。即ち です。しかし と非負値に制限すれば、これは単射になっています。実際、 ならば であり、これが満たされるのは の時か のどちらかとなりますが、後者の場合は とならなければならず、, のどちらかが正である場合には であるので とならざるを得ません。

なお、全射かつ単射である関数を全単射 (bijection) と呼びます10。上の は全単射です。

 

逆関数

関数 が全単射であるとします。この時、任意の に対して、 の全射性から となる が存在します。更に、 の単射性から、そのような は一つしか無い事が分かります。よって、 の任意の元に対して、「 となる 」を一意的に特定出来ます。この の事を 逆関数 (inverse function) と呼び と表します。 に対して、 は「 となる 」なのだから、明らかに です。同様に、 に対して、 とした時に は「 となる 」に相当しているので、 となります11

ここで、逆関数が存在するための十分条件を考えてみます。 として、 を狭義単調増大な連続関数とします12。すると、単調性から明らかに , であり、 とすれば は全射です (中間値の定理を使っている事に注意しましょう)。更に、 である時、 のどちらかが成り立ちますが、単調性から前者の場合 , 後者の場合 となり、いずれにしても となります。よって は単射でもあり、ゆえに全単射なので逆関数 が存在します。更に もまた狭義単調増大となっています。実際、 を満たす時、もし であるならば の単調性から となってしまい矛盾が生じます。

後は が連続である事が示せれば、次の定理が得られた事になります。

 定理 2. とし、 上で定義された関数 が狭義単調増大かつ連続であるならば、 上で の逆関数 が存在して狭義単調増大かつ連続となる。


証明. の連続性を示せば良い。そこで、ある において が連続でないとして矛盾を導く。

背理法の仮定から、ある 及び なる数列 が存在して が成り立つ。さて、各 に対して とおくと、 であり は有界区間なので もまた有界列。よって Bolzano–Weierstrass の定理から収束部分列 が取れる。その極限を とすると、 の連続性から が成り立つ。一方、 に収束するので , であり、(5) と合わせると でなければならない。 を作用させれば , 即ち となるが、これは (4) に矛盾する。よって で連続である13


定理 2 では狭義単調増大の場合を扱いましたが、 が狭義単調減少の場合も全く同様です。実際、 に定理 2 を適用すれば良いだけ (つまり ) です。

さて、定理 2 は有界閉区間においてしか考えていませんでしたが、同様の結果を に対して使いたい場面がしばしばあります。そこでまず、 に対する関数の極限を定義しておきます。 とし、またある に対して であるとしておきます。

  • 以下が成立する時、 において に収束すると言い、 と表す。
  • 以下が成立する時、 において に発散すると言い、 と表す。
  • の時、 において に発散すると言い、 と表す。

の場合も同様ですが、一応書き下しておきます。今度は となっているとします。

  • 以下が成立する時、 において に収束すると言い、 と表す。
  • 以下が成立する時、 において に発散すると言い、 と表す。
  • の時、 において に発散すると言い、 と表す。

様々なパターンがあるので面倒ですが、数列の場合と同様なので混乱はあまり生じないでしょう。

 系. とし、 上で定義された関数 が狭義単調増大かつ連続であり、かつ であるならば、 上で の逆関数 が存在して狭義単調増大かつ連続となる。

逆関数 の存在と狭義単調増大性までは の場合と全く同じです。しかし、 の連続性を定理 2 と全く同じ方法で示そうとすると、 が有界でないところで詰まってしまいます。とは言え、ある点における連続性を示すのに何も の点全てを考える必要はなく、例えば における連続性を示すのには、定理 2 を例えば として適用すれば良いだけです (詳細は演習にしてここでは省略します)14。同様にして次を得る事も出来ます。

 系. 上で定義された関数 が狭義単調増大かつ連続であり、かつ , であるならば、 上で の逆関数 が存在して狭義単調増大かつ連続となる。

今度は無限遠点において が収束しているケースです。 そのものを含んでいない事に注意しましょう。実際、もし であるならば、ある に対して となり、狭義単調性から ならば です。特に、適当な に対して となるので、再び狭義単調性から、 ならば となり、 をいくら小さくしても 以上近付く事が出来なくなってしまい、 とはならなくなります。

この系の証明も、 の適当な有界閉区間を取ってそこに定理 2 を使う事で証明出来るので、各自確認してみて下さい。これ以外にも様々なパターンが考えられますが、いずれも同様でありキリがないので省略します。

 

初等関数 III

§3 の脚注 9 や §4 の「寄り道」において、, に対して「 乗根」 を証明無しに使用しました。ここでは定理 2 及びその系を使って、 を作ってみましょう。なお に対しては本講座では によらず常に を定義しません15

まず、 乗根 とは「 乗すると になる非負の実数」の事です。言い換えるならば、 とした時に「 となる 」の事と言えます。今、 上明らかに狭義単調増大であり、また , です。後者についても色々証明が考えられますが、例えば の時に である事から直ちに示す事が出来るでしょう。よって定理 2 の一つ目の系から、狭義単調増大な連続関数 の存在が示されます。そこで、 と表す事にする、というわけです16

今となってはほとんど明らかな事と思いますが、以下の補題が成り立ちます。

 補題. 関数 , に対して、合成 (composition) , で定義する。もし が共に各定義域上で連続ならば 上で連続。


証明. 任意の を取る。今、 で連続である事から、ある が存在して となる。次に、 で連続である事から、ある が存在して である。これと (6) を合わせれば、任意の に対して が得られる。よって で連続。 は任意だったので、 上で連続。


この補題から、正の有理数 に対して連続関数 を構成する事が出来ます。まず なる が存在するので、 を考えると、これは「 乗根」及び「 乗」という 上の連続関数の合成であるので、やはり連続関数です。但し、 §4 の脚注 8 で触れたように、 が well-defined である事を示すためにはいくつか確認しておかなければならない事があります。少しゴチャゴチャとしますが一気に示してしまいましょう。

  • まず、, に対して である事を見ておきます。 として、両辺の 乗根を取る事で が得られます。両辺を 乗すると となり、更に両辺の 乗を取れば です17。よって両辺の 乗根を取って が得られました。
  • 次に、 () の時に である事を示します。これが成り立てば、 となり、「 乗」の well-definedness が得られた事になります。仮定より であり、ここから が得られます。 乗根を取れば となりますが、上で示した事を に適用すれば となり、したがって です。 乗根を取れば が得られます。

これにより、連続関数 (7) が確かに構成出来ました。また、, に対して指数法則 が成り立つ事も分かります。実際、, なる を取れば18 となります。特に として です。 の時に と定めれば、上が任意の で成立する事もすぐに分かります。

ところで前回、「指数法則を満たす連続関数 (更に ) となるもの」は (その存在と一意性の証明はまだしていないものの) 任意の に対して となる事を示しました。同様の関係が任意の有理数に対しても言える事を確認しておきましょう。

  • に対して であるので、 乗根を取れば が得られます。
  • () の時、 となります。
  • の時、 として から です。

これで、 に対して、「指数法則を満たす連続関数 (で を満たすもの)」は 上で常に を満たす事が分かりました。但し、これまでの計算において の連続性は使われていません。連続性は、指数関数を 上から 上に持ち上げる時に本質的に使われる事となります。

最後に、 が狭義単調増大である事を示しておきます。まず次の補題を準備します。

 補題. 任意の に対して が成り立つ。


証明. は正の有理数ゆえ なる自然数 が取れる。まず自明な不等式 と関数 の狭義単調増大性から が成り立つ。更に関数 の狭義単調増大性から が得られる。


この補題から、 なる有理数 に対して 即ち となる事が分かります。

 

ここまでのまとめ

連続関数に対する中間値の定理を用いて、狭義単調増加連続関数の逆関数の存在と連続性を示し、その応用として非負の実数に対する「有理数乗」関数を連続関数として構成しました。これにより、指数法則が任意の有理数で成り立つところまで具体的に確認する事が出来ました。

指数関数の構成まであと一歩なのですが、今回は大分長くなってしまったのでここで一旦打ち切りたいと思います。

連続関数に関して中間値の定理以外にも重要な基本定理がいくつかあり、それらも今後紹介する予定です。


  1. 勿論、 等の広い空間を定義域とする関数の場合にも への制限を考えれば良いので、「 の外で定義されてはいけない」というわけではありません。
  2. §7 の脚注 5 と同様ですが、上限の性質 (§6 に現れた命題) から任意の に対して ( と考えて) を満たす が取れて、 である事から が従います。
  3. §8 の脚注 10 に登場した開集合の補集合の事を一般に閉集合 (closed set) と呼びます。閉区間は閉集合の一種であり、また が閉集合である時「 内の任意の収束列の極限が に含まれる」という性質を持つ事が知られていますが、これの証明もここ (本文の「実際、…」の部分) と同様の手順で行えます。
  4. §3 の補題を参照して下さい。
  5. 例えば とすれば O.K. です。
  6. これから数学的に構成していこうとしている (まだ構成していない) 関数を説明のために引き合いに出すのも気が引けますが…
  7. の像 (image) と呼んで、 と書く事もあります。文献によっては値域を他の意味で用いる場合もありますが、本講座では値域と像を区別せずに用います。
  8. 細かい事ですが、surjective は形容詞であり、「全射である」という事を意味する単語です。名詞としての全射に対応する英語は surjection となります。Onto と呼ぶ事もあります。
  9. 脚注 7 と同様、injective もまた形容詞であり、単射そのものを表す名詞は injection です。1:1 (one-to-one) とも呼ばれます。
  10. ここでは文脈から名詞として全単射と呼んでいますが、形容詞としての「全単射である」の英語は bijective となります。
  11. 合成関数の記号を使えば、 かつ と書けます。ここで、 の恒等写像です ( も同様)。これを逆関数の定義とする事もありますが、その場合 が全単射である事を容易に示せるので、どちらで定義しても同じ事になります。
  12. 関数の単調性については §0 を参照して下さい。
  13. この証明では、 及び の単調性をどこにも使っていないように見えます。という事は、全単射連続関数は単調性が無くともいつでも連続な逆関数を持つように思えます。実際それは (今の場合に限って) 正しいのですが、実は閉区間上の単射な連続関数はいつでも狭義単調増大または狭義単調減少である事が知られており、「閉区間上の単調性の無い全単射連続関数」は存在しないのです (定義域が閉区間でなくなると状況が一変します)。中間値の定理の良い演習問題となるので、機会があれば証明したいと思います。なお一般の ( が閉区間でない) 場合には「全単射連続関数の逆関数は連続」は必ずしも成り立ちません。定理 2 の証明を良く見てみると、 の有界性と共にさり気なく書いた の部分がポイントとなります。実は、 が (点列) コンパクト (§7 参照) である事が重要なのです。
  14. これは、連続性という概念が局所的なものである事に基づいています。
  15. やろうと思えば が奇数の時に 乗根を実数として与える事は出来ますが、一般の に対しては 上の実数値関数として を定義する事は出来ません。更に、今後任意の実数 に対して を考える都合上、 に対する冪乗を扱うのは難しく、今後も「整数乗」以外の冪乗を考える場合には定義域を (または ) に限った方が話がスムーズになります。
  16. に対して とは の事でしたが、ここでの と書いてしまうと と混同してしまうので、逆関数の意味で を付ける時には の具体的な数式自身に付けてしまわないように注意しましょう。なお、 とは「 の逆関数の における値」ですが、 は単に と読む事が出来てしまい、紛らわしいです。 をどの意味で表記しているのか常に注意が必要です。
  17. 自然数乗に対する指数法則を使っています。
  18. 通分すれば分母を同じ値に出来ます。

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