初等解析学 (微分積分学) 入門 §6

2018/9/22
@tk

§6 実数の性質 I

今回は §4 で扱った数列の極限と関連して、実数空間に要請される公理、特に実数の連続性に触れながら、実数の基本的な性質について解説していきたいと思います。

 

実数の公理

既に §4 でも触れた事ですが、そもそも「実数とは何か」という問いに対して、現代数学では「以下の性質を満たすような集合 (の元)」というのが大まかな答えになります。

  1. で割る」以外の加減乗除が自由に出来る
  2. 任意の 2 つの元に対して順序 (大きさ) の比較が出来る
  3. 数直線上において実数は隙間無くギッシリ詰まって存在している

上のうち 1. と 2. は有理数集合 も備えている条件であり、これだけでは実数全体の特徴付けにはなりません。1., 2. に関する公理を一つ一つ与えると、基本的に 16 個程の公理にまとめられるのですが、それらについてはここでは割愛して「中学や高校の数学 (あるいは小学校の算数) で行ったような計算や順序比較が自由に出来る」と考える事にします。問題は、3. における「実数がギッシリ詰まっている」という直観的な条件をどのように数学的に書き下すか、という点です。

 

有理数と無理数

そこでもう一度、実数と有理数の違いを考え直してみたいと思います。現代を生きる我々は のような無理数の存在にもあまり抵抗を持たないと思われますが、そもそも とは「二乗すると になるような (正の) 数」として与えられるものであり、そのような数は有理数 (分数) にならない事がピタゴラスの時代に示され、無理数の発見に至りました。

我々は となる事を知っています。そこで、次のような有理数列 を考えてみる事にします。 つまり を小数第 位で打ち切った数”というわけです。 の小数展開を所与にしている構成の仕方が何だかカンニングをしているようで嫌だという場合には、次のように定義してやればより厳密な数列の構成が出来ます1 例えば の時、, となる事に注意すれば (1) の右辺 (の max の中身) は の時に最大値を取る2事が分かるので , といった具合です。このようにして作った数列 は、 を大きくしていくと限りなく に近付いていくと考えられますが、しかしその定義から、いくら を大きくしても となる事はありません。

上の状況は §4 で扱った数列 の時のものに似ています。上で定義した数列 もまた上に有界な単調非減少列であり (何故でしょうか?)、次の命題3を認めれば の (実数値としての) 存在が保証されます。

 命題 1. (有界単調列の収束) 単調非減少または単調非増大である有界数列は収束する。

 

命題 1 をひとまず認めると、ここから における極限値の存在が分かるので、それを と表す事にします。一方、 の定義の仕方から が成立しているので、 として , 即ち である事が分かります ( である事 (よって ではない事) は明らかでしょう)。

つまり、少なくとも という無理数について、我々は命題 1 を用いれば有理数列の極限として捕まえられる、という事です。同様の方法によって、 等の様々な無理数を有理数の極限として捉えられる事が分かるでしょう。しかしそれらの極限値自体は有理数ではありません。言い換えると「有理数列の極限として捕まえる事が出来るがそれ自体は有理数ではない数」が無数に存在し、それらが数直線上にギッシリ埋まっている、というわけです。

 

集合の上限

少し見方を変えて、 を集合として考えてみる事にします。 更に、以下の集合も定義しておきましょう。 当然、 という関係が成り立っています。 また明らかに が成り立ちます。それでは、 に最大値は存在するのでしょうか。

もし に最大値が存在するとしたら、ある が存在して と書けていなければなりません。しかし は単調非減少列であるので、任意の に対して となります。一方で より である事を考えると、, 即ち において の値は全て同じであるという事になってしまいます。すると となり、 が無理数である事に矛盾します。よって に最大値は存在しません。

同様に、もし に最大値 が存在したとすると、 である事から が任意の で成立しますが、 とすれば となり、また である事から となるので、結局 となってしまい、 に矛盾します。

このように、 と違って には最大値は存在しないのですが、しかし明らかに の「限界値」を特徴付ける数字となります。実際、 となっていますが、更に にも にも、 に限りなく近い値が無数に存在しています。そこで次の概念を導入します。

 定義. (上限) 任意の集合 に対して、次を満たすような 上界と呼ぶ。 更に、 の上界の最小値を (もし存在するならば) 上限 (supremum) と呼び、 と表す。

 

の上限が である事を確認してみましょう。まず 以上の任意の実数であるとします。この時、任意の を取ると定義から が成立するので、 の上界です。以上の事から「 以上の実数は全て の上界である」という事が言えます。

次に、 未満の実数とすると、 である事から十分大きな に対して と出来ます4。よって の上界ではありません。対偶を取って言い換えると「 の上界は常に 以上である」という事が分かります。

これらをまとめると、 の上界全体からなる集合は であり、これの最小値は明らかに なので、 である事が分かりました。

集合 の上界とは「 のいずれの元よりも小さくないような実数の中の最小値」であり、まわりくどい定義のように見えるかもしれませんが、こうする事で のような最大値を持たない集合に対しても、「最大値のように見えるがギリギリ元の集合に属していない値」を上限値として特徴付ける事が出来るわけです。勿論、もし集合 に最大値が存在するならば が成立します (簡単なので各自示してみて下さい)。

集合の上限があるからには下限もあるのですが、話の順序の都合上、下限の定義はもう少し後で導入したいと思います。

 

実数の連続性公理その 2

さて、上の定義において、集合 の上限を「もし存在するならば」 と書く、と述べました。実は実数からなる集合は「いつでも」上限を持つ、というのが実数の連続性公理の一つのバージョンです。より正確には以下が成り立ちます。

 命題 2. (上限の存在) 上に有界な任意の (空でない) 集合 に対して が存在する。

 

集合 が上に有界とは「任意の に対して となるような が存在する」という意味です。逆に言えば、もし が上に有界でないとすれば、任意の実数 に対してある が存在して が成立します。つまり、上に有界でない集合はいくらでも大きな実数を含んでいます。このような場合に と表す事にすれば、(記号の使い方がやや乱暴かもしれませんが) 命題 2 を次のように言い換える事も出来ます。

 系. ( も含めた上限の存在) 任意の (空でない) 集合 に対して が存在する。

 

更に、(記号の使い方がいよいよ乱暴かもしれませんが) 空集合 に対して と約束してしまいましょう5

 系. ( も含めた上限の存在) 任意の集合 に対して が存在する。

 

この意味で「実数集合の任意の部分集合は上限を持つ」と言う事が出来ます。

ここでこれらの命題と系の直観的な意味合いについて考えてみましょう。今、実数全体からなる数直線上の任意の部分集合 を考えてみます。もし の右端が無限の先まで伸びているとするならば、 の中にはいくらでも大きな実数が無数に含まれているので となっている事になります。一方、もし が上に有界である、即ちある値よりも大きな実数を一つも含まないのだとすると、たとえ がどんなにヘンな形をしていたとしても、数直線上に「 の右端」を見つける事が出来ます。その右端が に含まれていようといまいと、とにかく「 の右端は (数直線上に乗っているので) 実数である」という事を主張しているのが命題 2 であり、その意味で命題 2 もまた「実数がギッシリ詰まっている」という事を表しています。

ここで、上限と全く同様にして集合の下限を定義しておきます。

 定義. (下限) 任意の集合 に対して、次を満たすような 下界と呼ぶ。 更に、 の下界の最大値を 下限 (infimum) と呼び、 と表す。

 

ここでは「もし存在するならば」というフレーズを使いませんでした。実際、「上に有界な集合は上限を持つ」事を認めれば、「下に有界な集合は下限を持つ」事を容易に示す事が出来ます。

 系. (下限の存在) 下に有界な任意の (空でない) 集合 に対して が存在する。


証明. を下に有界な集合とし、 を考える。 は上に有界な集合なので、命題 2 より が存在する。そこで とすれば、 が「 の上界全体からなる集合の最小値」である事から、 が「 の下界全体からなる集合の最大値」である事が示される。


上限の場合と同様、下に有界でない集合の下限を と表す事にしましょう。更に、空集合の下限を と表す事にすれば、上限の場合と同様に「任意の実数部分集合の下限の存在」が次の意味で言えます (但し乱暴な記号の使い方をしている事に注意して下さい)。

 系. ( も含めた下限の存在) 任意の集合 に対して が存在する。

 

命題 2 を前提とすれば、命題 1 をよりスッキリとした形でまとめる事が出来ます。その前に、上限や下限の定義をイプシロン・デルタ論法風に言い換えておきます。

 命題. を (空でない) 上に有界な集合とする。この時、 である事は以下の条件 (1), (2) と同値である。
(1) 任意の に対して
(2) 任意の に対してある が存在して

 

上の命題の (1) は「 の上界である」という事を表しているだけです。(2) が少し分かりにくいかもしれませんが、つまり「 の任意の元は よりも大きくなる事は出来ないが、しかし の元は にいくらでも近付く事が出来る (ほんの僅かに だけ力を借りれば を超えられる)」という事を意味しています。


証明. まず「 (1), (2)」を示す。(1) は上限の定義から明らか。次に (2) が成立しないとすると、ある が存在して となる。すると もまた の上界であり、また となるが、これは の上界の中の最小値である事に矛盾する。よって (2) が成立。

次に「(1), (2) 」を示す。それには、((1) と) (2) を満たす の上界全体からなる集合の最小値である事を示せば良い。即ち、 の任意の上界とすると となっている事を確認すれば良い。そこで、もしこの関係式が成り立たないと仮定する。すると となるので、 が成立。これと (2) から、ある が存在して となり、ここから が得られるが、これは の上界である事に矛盾する。よって が任意の の上界 に対して成立する事が示された。


この命題から直ちに次が得られます (符号を反転させるだけなので詳細は省略します)。

 系. を (空でない) 下に有界な集合とする。この時、 である事は以下の条件 (1), (2) と同値である。
(1) 任意の に対して
(2) 任意の に対してある が存在して

 

これらを使って命題 1 を次のように言い換えます。

 命題 1’. を単調非減少 (または単調非増大) な有界数列とする6。この時、 (または ) が成立する。ここで ( も同様)。

 

命題 2 から上の命題 1’ を導いてみましょう。


証明. が単調非減少の時のみ示す。 とおくと、仮定から は上に有界なので が存在する。今、任意の を取ると、上限の性質からある が存在して が成立7。仮定より ならば なので、 に対して成り立つ事が分かった。一方、上限の定義から明らかに , が成立。以上をまとめると となり、 である事が示された。


実は命題 1 と命題 2 は同値であり、命題 1 から命題 2 を示す事も出来ます。そればかりか、実数の連続性公理を表す命題は他にもいくつも知られており、それらは全て同値です。それら全てについてここで紹介して同値性の証明を与える事はしませんが ( §4 で紹介した赤先生の教科書等を参照して下さい)、本稿ではまず命題 2 を前提とした上で、実数や有理数の持つ基本的な性質について調べていきたいと思います。

 

有理数の稠密性

§4 において、有理数は「数直線上で無数に存在しているが実はスカスカ」と表現しました。「実はスカスカ」というのは上で述べた通り、 のような無理数達が実数の中には数多く存在しておりその数8は有理数全体よりも遥かに多い、という意味ですが、一方で有理数は「無数に存在している」更には「どんな実数の周りにも無数の有理数が存在している」という性質を持っています。例えば上で述べたように、 という実数は有理数ではありませんが、(1) で定義した有理数列 に収束するので、どんなに小さな を取ってきたとしても、ある が存在して ならば となっている、即ち の半径 以内には無限個の有理数 がいる事が分かります (もっと言えば、 の近傍9に存在する有理数は 達だけではありません)。このような有理数集合 の性質を稠密性 (ちゅうみつせい)10と呼びます。

 命題 3. (有理数の稠密性) 任意の実数 及び任意の に対してある が存在して が成り立つ。

 

次のように言い換える事も出来ます (証明は各自)。

 系. なる任意の実数 に対して、 を満たす有理数 が常に存在する。

 

() として命題 3 を適用する、つまり各 に対して となるような有理数 を選んでこれる事から、次が従う事もすぐに分かります。

 系. 任意の実数 に対して となるような有理数列 が存在する。

 

命題 3 を示す前に、§2 において「そんなの当たり前に決まっている」と考えて証明に踏み込まなかったArchimedes の原理の証明も命題 2 からすぐ出来るので、ここで示しておきます。

 命題 4. (Archimedes の原理) 任意の実数 に対して ある が存在して .


証明. 背理法で示す。もし , , であったとすると は上に有界。よって命題 2 より . ここで、 の整数部分11 と表すと が成り立っている。しかし であるので、 の上界である事から が成り立っていなければならず、矛盾が生じる。よって題意は示された。



命題 3 の証明. 所与の に対して、命題 4 から なる が存在する。また、 の整数部分とする、即ち かつ . 各辺を で割れば となる。そこで とおけば、上から であり、また である事も分かる。以上より が示された12


「有理数は (スカスカかもしれないが) あらゆる実数の近くに無数に存在する」という状況から考えれば、有理数よりもたくさん存在する無理数もまた同じ稠密性を持っている事が容易に予想されます。

 系. なる任意の実数 に対して、 を満たす無理数 が常に存在する。

 

証明はほとんど謎掛けやパズルのようなものであり、有理数の稠密性から容易に従います。


証明. 命題 3 より を満たす有理数 が存在する。よって を満たす無理数である。


 

ここまでのまとめ

今回扱った「上限の存在」や「有理数・無理数の稠密性」から「有理数は数直線のいたるところ (の近く) に無数に存在しているが実はスカスカ」「一方、実数は数直線の上にギッシリ詰まっている」という感覚を少しでも掴んでいただく事が出来たなら何よりです。

実数や有理数の集合は様々な興味深い性質を持っており、そのほとんどは実数の連続性公理に起因しています。今回紹介したもの以外にも、ここで取り扱うべき基本的性質がまだまだ残っているのですが、長くなってきましたので今回は一旦ここで終わりとして、次回また続きを扱いたいと思います。

なお、「数直線上に実数がギッシリ」を直観的に理解するためのもう一つの方法として「数直線を任意の箇所でスパッと切断すると断面にいつでも実数がいる」という、所謂 Dedekind の公理に基づいた解釈も可能であり、これについても次回簡単に紹介する予定です。


  1. の定義において を用いていますが、そのためには の中の集合が最大値を持つ事を示しておかなければなりません。しかし、(1) 式で考えている集合は有限集合である事が容易に分かり ( なる自然数 は有限個しかありません)、有限集合に最大値が存在する事もまた容易に示せるので、 は各 に対して確かに定義されている事が分かります。
  2. が最大値をアテイン (attain) する」等という表現を使う事もあります。
  3. §4 の命題 3 の再掲ですが、§が変わったので番号を 1 から振り直させて下さい。
  4. より正確には、 に対してある が存在して の時に となる事から 即ち となる、という事ですが、慣れてくるとこのような議論も冗長に感じてくると思いますので (いつでも自分で行間を丁寧に埋めて細かな論証が出来る、という前提の下で) 徐々に省略した書き方をしていく事にします。
  5. これは本稿だけでの約束であり、空集合の上限 (や下限) の定義は文脈によってまちまちです。
  6. 細かい事ですが、上に有界な単調非減少列は下に有界でもあるので、ここでは単に「有界数列」としました。下に有界な単調非増大列についても同様。
  7. より厳密には、上限の性質から となる が取れ、 の定義からある に対して と表せる、という事です。
  8. 正確には濃度 (cardinality)という言葉を使うべきですが、詳細は割愛します。
  9. いずれ厳密な定義を扱う事になると思いますが、とりあえずは「 を含む小さな開区間」と思っていて下さい。
  10. 「ちょうみつせい」と読まれる事もあります。英語では density ですが、(確率) 密度の事も density と呼ぶので少々紛らわしいです。「稠密である」という形容詞に対応する英語は dense であり、こちらは非常に良く使われます。
  11. 床関数 (floor function) とも呼ばれます。日本 (の特に高校数学まで) では Gauss 記号 が良く用いられ、 で定義されますが、現代数学においては より を用いるのが一般的です。
  12. 一見、命題 3 の主張 “” よりも強い事が言えてしまいましたが、 の間にも、また の間にも常にいくらでも有理数は存在しているので、結局は同じ事になります。

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