一般社団法人 数理ファイナンス研究所 (AMFiL) 代表理事の加藤 恭です。本研究所 (以下 AMFiL) は、数理ファイナンス及びその関連分野における教育・研究へのエンカレッジ (奨励) のため、また AMFiL のメンバー自身の研究活動を推進する際の拠点として 2017 年 4 月に設立されました。
数理ファイナンス (mathematical finance) とは、大まかに言えば確率論や統計学等の数理的な手法を用いてファイナンスにおける諸問題を分析する研究分野の事であり、「金融派生商品 (デリバティブ) の適正な価格はどう与えられるか」「効率的な資産運用を行うためにはどうすれば良いか」「将来発生するかもしれない大規模な損失の可能性を考慮してどのようにリスク管理をすれば良いか」等といった様々な問題を数理的に調べるための科学と言えます。同様の研究分野として金融工学、理財工学、計量経済学…等々、様々な分野が存在しますが、私の個人的な認識では、数理ファイナンスとはその中でも「証券・金融市場における社会現象に対する窮理学的な側面を持つ」「理論的な研究であるが故に数学的厳密性を追求する」ような分野と位置付けています。
AMFiL では、所属するメンバーそれぞれが数理ファイナンス及び関連分野における各々の研究活動を展開させていくと共に、数理ファイナンスの研究で必要となる基本的な数学や現代投資理論に関する基礎知識、及び Fintech (= finance + technology) に関連する様々な話題等をブログ形式で取り上げて紹介していきたいと考えています。数理ファイナンスの研究や証券・金融に関して興味を持っていただいている方だけでなく、幅広い層の方々に興味を持っていただけるよう、分かりやすく読みやすい記事を発信していきたいと思います。
近年、IT 技術の発達や相次ぐストレス事象の経験と共に、金融商品の取引やリスク管理における実務はますます複雑化が進んでいます。証券取引においては、コンピューターを用いてミリ秒・マイクロ秒、果てはナノ秒の単位で発注が行われるようになる、と言われている高頻度取引 (high frequency trading; HFT) が活発に用いられるようになり、以前とは証券市場自体の構造も大きく変化していく可能性が高いと思われます。また、デリバティブの理論的な価格評価理論の構築と発展は数理ファイナンスや金融工学といった分野における大きな研究成果と言えますが、特にサブプライムショック・リーマンショックといった一連の金融危機を踏まえ、近年は複雑な金融派生商品の価値評価やリスク管理のために要請される数学的手法も大変高度なものとなりつつあります。更には機械学習の発展や民主化、またブロックチェーン技術による仮想通貨 (分散型暗号通貨) の誕生と市場規模の急速な拡大等、Fintech の活用も進んでいく中で、証券・金融市場における基礎理論の構築は市場規律や健全性担保のために大変重要な意味を持つ事になると考えています。そしてそのためには、理論・実証の研究者や実務家達がそれぞれの垣根を超えて、情報を共有しながら互いに理解しあう、という和合の精神を持って取り組む事が必要でしょう。
AMFiL の事業もまた、数理ファイナンスにおける理論研究のみで閉じてしまうのではなく、様々な分野における研究・実務活動との連携を意識し、広範な視野を持って取り組んでいく所存であり、多くの方々のためにお役に立てるような活動を進めていきたいと祈念しております。
また AMFiL では数理ファイナンス及びその関連分野に対する研究助成事業に取り組んでいく事を計画しております。今はまだ準備中の段階ですが、将来的に多くの研究者の方々に有効に活用していただく事が出来れば幸甚です。