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§17 級数
今回は久々に数列に関するお話で、「無限に並んでいる数列を (順番に) 足し続けたらどうなるか」について考えます。「無限に足し続ける」と言っても、数学的には「 個足す」という操作において の極限を考える事に他ならないので、今までと全く異なる新しい概念が登場するわけではありません。しかし、前回 §16 やここで触れられているように、級数 (数列を無限に足し合わせたもの) ならではの興味深い話題も見られます。
級数の定義
数列 が与えられた時、それらを全て足し合わせたもの を考えます。但しこれはやや漠然とした書き方であり、厳密には (1) は として定義されるものとします。言い方を変えるならば、 によって次のように定義される部分和 (partial sum) を考えると もまた実数列となっているので、 の の下での極限を (収束するにせよ発散するにせよ) 考える事が出来ます。収束する場合、その極限 の事を と表し、これを級数 (series) と呼びます。発散する場合には (4) の事を発散級数 (divergent series) と呼びますが、この時は (4) は実数値を表していない ( かもしれないし、無限大の記号を使ってすら表せないかもしれない) 事に注意が必要です1。いずれにしても、ここでは発散する場合にも (4) を級数と呼び、 が収束するかしないかによって「級数が収束する」「級数が発散する」という表現を用いる事にして、収束性の議論無しに (4) の表記の使用を許します。
定義. 実数列 について、(3) で与えられる数列 が収束する時、 が与える級数は収束すると言い、その極限を (4) で表す。 が発散する (収束しない) 時、級数は発散すると言う。
既に我々はいくつかの級数を扱っています。例えば、§4 では Napier 数を導出する過程で という級数が収束する事を使っています。また §2 でも暗に という級数が扱われています。
これらのように、級数を与える数列 が非負値である時、(4) の級数を正項級数 (series of positive terms) と呼びます2。正項級数の場合、部分和 は単調非減少列となるので、実数の連続性公理によれば、 でありさえすれば級数の収束が従います。
一方、 をやはり非負値数列とする時、 (あるいは ) によって定められる次の級数を交代級数 (alternating series) と呼びます。 ここで例に挙げている は典型的な交代級数です。試しにこの級数が に収束する事を示してみましょう。
部分和 をやはり と置きます。まず恒等式 に対して、 として を代入すると が得られ、ここから が従います。両辺を積分して が得られます。但し です。左辺について、 である事から となっています。一方、(7) の右辺第一項について となるので、これらをまとめると が得られます。後は である事が言えれば が成り立つ事が示されますが、それは (§14 の命題 4 の系を使って) から明らかです。
さて、更に級数の収束に関するいくつかの定義を紹介します。
定義. 実数列 に対する級数 (4) が絶対収束する (absolutely convergent) とは、 即ち の絶対値からなる数列 が定める級数が収束する事を言う。収束はするが絶対収束しない級数は条件収束する (conditionally convergent) と言う。
まず、絶対収束する級数は通常の意味でも収束しています。実際、(4) が絶対収束しているとすると、 の定める級数の部分和を と表す事にすれば、 は収束列ゆえ Cauchy 列となり、よって を (3) で定義されるものとして、三角不等式から となり、 も Cauchy 列となるので (4) の収束が示されます。
また正項級数は各項について絶対値を取っても値は変わらないので、収束するならば必ず絶対収束もします。一方、(6) の交代級数は収束する事は上で示しましたが絶対収束はしません。実際、 となっています3。よって (6) は条件収束です。
後でより丁寧に見ていきますが、ここで紹介されているように、条件収束しかしない級数は直観にあまり従わないような振る舞いをする事が知られており、扱いには相当注意しなければなりません。
級数の収束性
これまでいくつかの具体的な級数に関してその収束性を見てきましたが、ここでは一般の級数の収束・発散を判定するための方法を見ていきます。その前にまず、§16 の冒頭の「寄り道」において使用した次の命題を示します。
命題 1. 実数列 が定める級数 (4) が収束するならば が成り立つ。
証明. 部分和 を (3) で定義すると、仮定より である。よって が成立4。
§16 の冒頭の証明では、 という部分に命題 1 を使っていました。記号の詳細は省略しますが、今の場合 とすると は非負なので、対応する級数が上から有界であるならば命題 1 から が成立する (よって更に が成り立つ)、というわけです。なお (8) では部分和 の部分列 の有界性しか扱われていませんが、任意の に対して であり なので、元の の有界性も自然と従います。
逆に ならば級数 (4) は収束するかというと、それは一般には正しくありません。反例として、既に上で実質的に示した があります。しかし面白い事に、単調に に収束するような数列が定める交代級数に関しては、次の命題によって収束が保証されています。
命題 2. 単調非増大列 が を満たすならば、対応する交代級数 (5) は収束する。
証明. 交代級数の部分和を と表し、まず部分列 の収束について調べる。 の単調性から となるので は単調非減少列。同様にして が得られるが、仮定から は常に非負値である事に注意すると が成り立つ事が分かる。よって実数の連続性公理から は収束列であり極限値 を持つ。すると となり、 もまた に収束する事が分かる。よって 自身も に収束する5。
上で扱った (6) も、収束性だけならこの命題 2 から直ちに分かります。
さて、級数の絶対収束性に関しては次の判定法が知られています。
命題 3. 実数列 に対して以下の極限値 が存在すると仮定する。 この時、 ならば (4) は絶対収束する。 ならば (4) は発散する。
判定に用いる極限値 として二通りの定義を与えていますが、どちらを選んでも が より小さいか大きいかで (絶対) 収束性が判定出来る点に違いはありません。なお d’Alembert の判定法においては、極限 が存在している事から十分大きな に対しては常に であると仮定されているとみなします。
命題 3 の証明は、基本的に等比級数 (等比数列が定める級数) の性質に従っています。容易に分かるように、(9) は の時に収束し、 の時に発散します。
それならば命題 3 も、 ならば (4) は発散するのでは…と思いたくなるかもしれませんが、実は、この場合には収束や発散を判定する事は出来ず、「場合による、どちらとも言えない」としか言えません。例えば (6) は、§3 で扱った例題から となるので、Cauchy の判定法において となっていますが、既に述べたようにこの級数は条件収束、即ち収束はしますが絶対収束しません。正項級数であっても、 となる場合に (絶対) 収束する級数もあれば発散する級数もあります。「何故 の場合に判定出来ないのか」は、以下の証明を見ると分かるかもしれません。
命題 3 の証明. まず Cauchy の判定法について示す。仮定より、 の時は、適当な に対してある が存在して、 の時に 即ち が成り立つ。よって となるが、 であるから右辺は とした時に収束する。よって左辺も収束列6。
一方、 の時は適当な を取ってやれば、十分大きな に対して となる。よって (10) と反対向きの (つまり を に置き換えた) 不等式が成立し、 であるから右辺は発散するので も発散する。
次に d’Alembert の判定法について考える。やはりまず の時を見ると、適当な を取って と出来る。すると の時に となる事から が得られる。よって となるが、 である事から右辺は の下で収束する。よって上と同様にして の収束が分かる。 の時もこれまでと同様なので省略 (各自)。
なお命題 3 は、滑らかな関数の Taylor 展開がいつ収束していつ収束しないのかを調べる時にも使われます。
級数の収束判定法には他にも有名なものがいくつか知られていますが、ここでは最も基本的な二つのみを紹介しました。他、級数の収束判定のために積分を活用する事も出来ます。例えば の収束を調べようとしても、命題 3 の方法ではいずれの場合も となってしまい、収束か発散かの判断が付きません (各自計算してみて下さい)。しかし、上の級数の部分和を と見てやると、区間 においては関数 は常に を満たす事に注意すれば、§14 の命題 3 (積分の区間加法性) や命題 4 の系を使って となり、正項級数 (11) は上に有界である事が分かったので、収束する事が示されました78。
級数の並べ替え
数列 が定める級数 (4) の部分和 (3) を考えます。実数には という性質 (交換法則) があるので、これを帰納的に使えば、あらゆる について「 の和を取る順序を並べ替えても構わない (値は変化しない)」事が分かります。これを数学的に正確に述べるならば となります。ここで は「 から への全単射全体からなる集合」であり、-次の対称群 (symmetric group) と呼ばれるものに一致しています。群という代数学の言葉を持ち出すと難しく感じるかもしれませんが、要するに「 個の自然数 を並べ替えて のいずれかに対応させる」という操作 (を全て集めたもの) の事であり、一つ一つの がその並べ替え方を表す写像になっています。例えば という全単射 に対して です。
そこで今度は、 の項全ての並べ替えを考えてみます。 の場合から類推すると、そのためには「 から への全単射 」を「並べ替えの操作」に対応する写像とみなすのが良さそうです。そうした時、「 の定める級数」と「 の定める級数」の値は一致するでしょうか? 「任意の で等しくなるのだから、きっと としても等しいだろう」と思いたくなるのですが、それは一般には不正解です。例えば (6) で定めた交代級数は に収束する事を示しましたが、それに対して によって を定めると ( が全単射になる事は各自)、 という具合になります。式で書くとややこしいですが、やっている事は「正の項を二つ並べたら負の項を一つ並べる」という並べ直しを第 項から順番に行っているだけです。 を という漸化式の形で書くと (幾分) 分かりやすいかもしれません。但し は「 の倍数全体からなる集合」です。
この並べ替え後の級数の値を調べるために、(6) の証明中に現れた式 を再利用します。まず である事に注意します。一方、同じ式から という関係式も得られるので、これらを足し合わせると が得られます。これと 等を合わせて の極限を取ると9 が得られ、(6) の値よりも だけ大きな値に収束してしまいました。よって今の場合、(12) の等号は成立しない事が分かりました。ここでは更に、(6) の級数の足す順番を変えてやる事で、収束先の値を任意の実数に変えられる事を、JavaScript アプリを使って視覚的に確認出来ます。更に、アプリを動かすだけでは正確に調べる事は出来ませんが、実は並べ替えによって級数を に発散させる事も出来てしまいます。
このように、有限個の数の和と異なり、無限個の和とも言える級数においては、(背後に極限の概念があるために) 直観的に問題無さそうな操作でも慎重に行わなければなりません。とは言え、このような微妙な問題はあらゆる級数に対して起こるわけではありません。例えば正項級数については、級数の並び替えの影響を気にする事無く、自由に順番を入れ替えてから足しても良い事が分かります。
命題 4. を非負値数列とする。この時、任意の全単射 に対して (12) の等式が成り立つ。つまり、右辺か左辺のどちらかが収束すれば、もう一つの級数も収束して値は等しい。逆に、右辺か左辺のどちらかが発散していれば、もう一つの級数も発散している。
証明. を一つ取り固定する。示すべき事は以下の 4 つである。
1. の仮定の下では、任意の に対して が成立する。実際、 と置くと、 に対して は常に 以下の値であり、また は 1:1 ゆえ の値に重複はなく、 のいずれも のどれかと一致しているので、 にも注意して となる (更に (3) が定める部分和が単調非減少である事にも注意)。よって は収束し、 が成り立つ。同様に、 と置けば であり、ここから が従う。よって両者の値は等しい。
2. は (13) から従う。3., 4. についても同様なので省略10。
以下では各項が非負とは限らない級数について考えていきますが、その前に、実数値を二つの非負の数に分解する有用な補題を紹介しておきます。
補題 1. 任意の実数 について、以下の 2 式を満たすような が存在する。
証明は簡単で、 とすれば良いだけです ( の符号で場合分けしてみましょう)。 及び は、それぞれ の positive part 及び negative part としばしば呼ばれます。単一の実数に対してこのような分解をしてもほとんど意味が無いように見えるかもしれませんが、この考え方は数列や関数を分解する時にしばしば本質的に重要となります。
補題 2. が定める級数 (4) が絶対収束している時、正項級数 も共に収束して が成り立つ。
証明. 補題 1 より明らかに なので が成立。 についても同様。よって が成り立つ。
上の証明において §3 の命題 1 を使っていますが、それは が の下で収束している事が分かっているからこそ使えるのだという点に注意しましょう。
逆に から絶対収束を示す事も出来ます (各自示してみて下さい)。これらから分かるように、「絶対値を評価する」事と「positive/negative part を評価する」事はほぼ同義です。
定理 1. 級数 (4) が絶対収束する時、任意の全単射 に対して (12) の等式が成り立つ。
証明. 補題 2 と命題 4 より が (複号同順で) 成立するので、 が定める級数も収束して が成り立つ事が分かる。
定理 1 により、絶対収束する級数に対しては「足す順番を並べ替えても値は変わらない (収束もする)」事が分かります。すると、((4) 自体は収束しているにも関わらず) 並べ替えると値が変わってしまう可能性があるのは「条件収束する級数」という事になります。そして、ここでも紹介しているように、実は条件収束する級数に対して次が成り立つ事が知られています。
定理 2. (Riemann の級数定理) 級数 (4) が条件収束しているとする。この時、任意の に対して全単射 が存在して が成り立つ。更に、全単射 が存在して が成り立つ (複号同順)。
(15) の意味は、 によって並べ替えた時の部分和が に発散する、という事です。形式的には「(14) が に対して成り立つ」と言っても良いかもしれません。
定理 2 の証明はやや厄介ですが、基本的な考え方は次のようになります。まず、(4) が絶対収束していないのだから、 か のどちらかは発散している (更に、これらは正項級数なので、発散しているとすれば に発散するしかない) 事になりますが、(4) 自体は収束しているので、実は positive/negative part のどちらが定める級数も発散している事が分かります (片方しか発散していない場合、(4) は か のどちらかに発散します)。部分和で見てやると、 において、 の極限を取ると左辺は何らかの値に収束しているのですが、右辺は形式的には (第一項と第二項を分けてそれぞれについて極限を取ろうとすると) のようになっており、これら二つの級数を分けてそれぞれ極限を取る事は出来ない、という状態です。これと定理 2 の主張を見れば、§3 の命題 1 に関する注意で触れたように安易に 等としてはいけない理由が良く分かっていただけると思います。
定理 2 の証明のアイデアは「 と のそれぞれの発散級数から順番に を持ってきて、(4) (の並べ替え) が目標値 から離れないようにする」というものです。例えば (6) の場合、目標値が であったとすると、とりあえず級数の部分和が を超えるまでは positive part の級数から順番に値を持ってきます。 よって です。今度は合計が大きくなり過ぎたので negative part から一つ持ってきます。 よって です。小さくなり過ぎたので positive part からまた順番にいくつか値を持ってきます。 よって です。大きくなり過ぎたので今度は negative part から取ってきます。 よって です (更に続けていくとどうなるかはここのアプリで確認してみて下さい)。
これを繰り返していくと、級数の部分和を目標値からあまり遠ざけないようにしながら、かつ基本的には の値を が小さい方から (positive part と negative part それぞれにおいて順番に) 取りこぼし無く選んでいるので、並べ替えは最終的に の全単射を与えると考えられそうです11。また、最初のうちは部分和の値も目標値を挟んである程度大きくブレていますが、しかし (4) 自体は収束する事から である事が命題 1 により保証されているので、一つの を加えた時の値の変動も が大きくなると抑制されていき、次第に目標値からほとんどずれなくなる、即ち収束していく事になります。
上は目標値が有限実数値である時の証明のアイデアであり、かつここで実装されているアルゴリズムの仕組みでもあります。目標が (あるいは ) である場合には、上の考え方における目標値を徐々に大きくする (あるいは小さくする) 事で証明出来ます。
定理 2 の数学的な証明は補遺にまとめる事にします。
まとめ
数列の無限和とも言える級数について、いくつかの具体例と共に基本的な性質を扱いました。級数は「足す順序を変えると値が如何ようにも変化してしまう」という厄介な性質を持つ場合がある事が分かりましたが、しかし絶対収束しているような級数に関してはそのような問題は起こらず、基本的に直観通りの計算をする事が出来そうです。また級数が絶対収束しているか否かを判定する方法も紹介しました。命題 3 における が存在する時、 ならば絶対収束、 ならば発散です。すると、級数が条件収束して並べ替え操作に対して不安定となり得るのは の場合という事になります。
次回からは、多項式関数を無限に足し上げた冪級数 (power series) または整級数 を扱いますが、これも を固定して考えれば、各 に対して級数を計算しているというだけの事です。すると、命題 3 を使って「冪級数が絶対収束するような 」の範囲を特定する事が出来そうであるように思えます。そしてそのような範囲において、冪級数と関数の Taylor 展開が繋がっていきます。§16 において、 は Taylor の定理による多項式近似がうまく働いていたのに対して の場合は が小さくないとうまく機能しなかった背後にも、このあたりの事情が関係していそうです。
またこれまで明確な定義を与えられなかった三角関数も、冪級数を使ってついに (初等幾何学や複素関数論を経由する事無く) 構成出来るようになります。同様にして、以前とは異なる方法による指数関数の再構成についても今後紹介していきたいと思います。
補遺: 定理 2 の証明
証明. まず を以下の 3 つの集合に分解する12。 仮定より、 及び は共に無限集合である事に注意する (そうでなければ や が発散する事は無い)。更に 及び に属する数を小さい方から順に 及び と表し、また (複号同順) とする。明らかに である。
ここでは である時の証明を与える ( の時も同様なので省略)。まず とすると、 が発散する事から である。そこでまず と定める。次に とすると、 が発散するのでやはり である。そこで と定める。これで が に対して定まった。
以下帰納的に、 に対して 及び が定まった時に 及び を定める事が出来る。更に として の定義を まで拡張する。
は作り方から明らかに狭義単調増大であり であるから である (但し便宜上 としている、 についても同様)。ここから が成り立つ。同様に である。
さて、 と定めた時に となる事を示そう。まず の時に となる事は の作り方から明らか。また (16) より、 の任意の元はある によって という形で表す事が出来るが (但し )、 と置けば であり となっている。よって である。 も同様。これと である事から が従う。よって は全射。また は 及び それぞれの上では狭義単調である事から単射である事も容易に示せる ( にも注意せよ)。よって は から への全単射を定めている。
後は、 として を示せば良い。まず命題 1 から なので、任意の に対してある が存在して である。ところで、 は一般に単調ではないが、 及び のそれぞれに制限すれば (狭義) 単調増大であった。よって、 を十分大きく取り直す事で が成り立つようにする事も出来る。更に、 となるような を取っておく。
を 以上の自然数とする。この時、 はある に対して に含まれている。まず の場合を考える。 の定義から 及び である事、また は ( 上では) 単調非減少であり、 より大きな値となるのは の場合に限られている事に注意すると、 が成り立つ事が分かる。ここで、 の定義と (17) から であり、ここから が得られる。同様に、 の挙動から となる事に注意して より となる。以上より である。 の場合も同様。よって 即ち が示された。
を構成するには、上の証明において 及び 等の置き換えをすれば良い (詳細は省略するが、 が十分大きければ となる事に注意すると、十分大きな に対して となる事から への発散が示せる)。 についても同様。
…以上、数式で正確に表そうとするとかなり煩雑になってしまいます。証明のエッセンスは本文中でも述べましたが、何をやっているかは自分で Riemann の級数定理のアルゴリズムを実装してみると雰囲気を掴みやすくなるかもしれません。また、上の証明の中で収束性の部分についても、 が の周りでどのように動いているのか、図を描いて整理してみると少し分かりやすくと思います。参考までに、(6) の交代級数に対して とした時の部分和の推移を図示しておきます (凡例の Sn を に、target を にそれぞれ読み替えて下さい)。
- 発散級数に対して、何らかの数学的な正当化によって (4) の表現に意味合いを持たせ、(4) に有限の実数値を割り当てる事があります。有名な例として という「公式」があります。しかし、これは「両辺が数学的に等しい」という意味ではなく、「何らかの意味で、左辺の式を右辺の値と結びつけられる」という事に過ぎません (その意味で、これを通常の意味での「等式」と呼んではいけないかもしれません)。上式の両辺が具体的にどのような意味で結びつけられるかというと、その説明は本講座のレベルを逸脱する事になるのでここでは割愛します (AMFiL Blog の個別のトピックとしていずれ紹介するかもしれません)。↩
- である場合も許すので、非負項級数の方がふさわしいかもしれませんが。なお、正項級数の定義を としている場合もあります。↩
- 数列の部分和の列 が収束するならば、その任意の部分列 もまた収束する事は通常の数列の時と同様です。対偶を取ると、 のある部分列が発散するのであれば元の部分和の列 もまた発散する、即ち級数としても収束せず発散しています。よって今の場合、級数の発散を示すためには元の部分和の列 自体でなく適当な部分列 の発散を示せば十分です。↩
- 念のため補足すると、 が に収束するのだから も に収束する事はほぼ自明であり、イプシロン・エヌ論法を使うのでも、部分列とみなすのでも容易に示す事が出来ます。よって §3 の命題 1 が使える、という事です。↩
- 任意の に対してある が存在して なのだから、 が十分大きければ常に となっています。↩
- はそれ自体が正項級数であるので、上に有界であれば即座に収束性が分かります。また は有限個の足し算であるため極限の存在に影響を与えないので無視して構いません。蛇足ながら補うと、 が に収束するならば は に収束します。↩
- 他のやり方として、 の時に となる事を利用して同じ不等式評価を得る事も出来ます。↩
- この級数の値を求める問題は Basel 問題として知られており、 に一致する事が 17 世紀半ばに示されました。証明の方法はいくつかありますが、いずれの方法も現段階ではまだ紹介する事が出来ません。↩
- 脚注 5 のような計算をしていますが詳細は割愛します。↩
- は全単射なので、 に対して 1., 2. を適用するのでも O.K. です。↩
- なお定義から、 に対して 即ち か のどちらかは常に となっています。ここでは「発散級数 」という書き方をしていますが、実際には の値が になるようなものは省いて考えています。↩
- ここでは なる を に含めましたが、 の方に寄せても何の問題もありません。↩
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