@tk
実数列 に対して、それらを足し合わせたもの を級数と呼びます。より正確には、上の部分和 を数列 とみなした時に、もし が の下である値に収束するならば、その極限を (1) で表します ( または に発散する場合も同様です)。
級数に関する詳しい話はいずれ 初等解析学 (微分積分学) 入門で扱う予定ですが、今回は「(1) で 達を足し上げる順番」に着目したいと思います。
(1) の定義が (2) で与えられる、という事は、級数 (1) とは「 達を が小さい順に足し上げたもの」と捉えられます。例えば次のような具体例を考えてみましょう。 即ち です。この場合、(1) は と形式的に書けますが、実はこれは に一致する (収束する) 事が知られています。厳密な数学的証明はここではしませんが、対数関数の Taylor 展開を知っていれば に を代入すると求める式が得られます。但し、 の Taylor 展開の収束半径は 1 であり、(5) の展開は で成立するものであるので、 の時の収束性はかなりギリギリのもの (絶対収束しないかもしれない、事実条件収束しかしない) 事に注意が必要です1。
さて、(4) は と 達を が小さいものから順番に足していったものでしたが、実は数列を並び替えて級数の足し上げの順序を変えると収束先の値が変化する場合があります。それを見るために、まず「並び替える」という概念を数学的にきちんと定式化します。
「並び替える」とは「自然数全体から自然数全体への全単射 を与えて の代わりに を考える」事を意味します。例えば としてみると、 となります。実はこの程度の並べ替えならば級数の値は不変であり、(6) もまた と一致する事が分かるのですが、恐るべき事に、(3) が定める級数について次の事実が知られています。
- 任意の実数 に対してある全単射 が存在して
- 全単射 が存在して
- 全単射 が存在して
標語的に言えば、「どんな実数 に対しても、数列を並び替えれば級数を に収束させられる」「同様に、数列を並び替える事によって級数を にも にも発散させられる」となります。これは (3) のような特別の数列が定める級数に限った事ではなく、一般の「(絶対収束はしないが) 条件収束する級数」に対して成り立つ事実であり、Riemann の級数定理と呼ばれています。
論より証拠という事で、実際に適当に与えた目標値 に対して、(3) の数列を並び替えて収束先を と出来る事を数値的に確認してみましょう。すぐ下のテキストボックスに好きな数字を入れて「実行」ボタンをクリックして下さい。但し、(理論上は はいくつでも良いのですが) あまり極端な値を入力すると収束が遅くなってしまうので、 位の値をお薦めします。色々な値で試してみて下さい。2
目標値 $\gamma =$
…如何でしょうか。部分和 が、一旦目標値 に近付いてはまた離れ、徐々に からの乖離が小さくなっていく様子が見て取れると思います。「所与の数列の足し上げる順序を入れ替えるとどんな値にでも近付けられる」と聞くと魔法のように感じてしまうかもしれませんが、色々な値を入れて具体的にシミュレーションを行ってみると、どのようにして並べ替えをしているのか、そのイメージを掴みやすいかもしれません。
数学的にもう少し厳密な議論はいずれこちらで取り上げたいと思います。
- である時、級数 (1) は絶対収束すると言います。収束はするが絶対収束はしない時、条件収束すると言います。文献によっては級数が収束する事を条件収束と呼んで絶対収束も条件収束の一種とみなす場合もありますが、ここでは「絶対収束級数は条件収束級数でない」と整理しています。↩
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