初等解析学 (微分積分学) 入門 §2

2018/6/30
@tk

§2 数列の極限 I

数列の収束

  を実数列とします。 §1 で触れたように、 がある実数 収束する、即ち であるとは以下が成り立つ事を意味します。 噛み砕いて言うと「どんなに を小さく取ったとしても、 が十分に大きいならば の差を よりも小さく出来る」という事で、 だろうと だろうと だろうと、それに応じて を大きくすれば「 より先の は全て 程も離れていない」という状況が生じている、つまり「 を限りなく大きくすると に限りなく近付いている」というわけです。

 これを確認するため、次の例を考えてみます。 等比数列の和の公式として良く知られているように なので、 を調べる事は の無限和の値を調べる事と同値です。

  の形を見れば、 に収束する事はほぼ自明かもしれませんが1、ここでは練習のために、イプシロン・デルタ論法 (イプシロン・エヌ論法) によって定義通りに となる事を確認 (証明) してみたいと思います。簡単のため と置いておきます。すると我々が確認すべき命題は となります ( の位置を移動してみましたが同じ意味です)。 ですので、値を具体的に計算してみると となっています。 これを見ると、 の時は と取れば , となります2 の時は と取れば良さそうです。更に計算すると、 の時は とすれば良い事が分かります。

 同様に、コンピューターを使って計算を進めていけば、 を更に小さく取ったとしてもやはり , を満たす を探せる事を確認出来るでしょう。しかしこのような計算をいくら続けてみても、「任意の 」という無限に存在する 全てについて確認する事は不可能です。

 我々の目的は、「所与の (小さな) に対して、 について成り立つ」ような をうまく見つける事にあります。そのためには (脚注 2 にもあるように) となる を探せば十分です。 である事に注意して (2) を変形すると となります。つまり (3) を満たすように を取れば良い、という事です。

 素朴に考えれば、(3) の両辺の対数を取って としたいところですが、「まだ対数関数を定義していないので使いたくない」という場合3は、例えば として「 より大きい最小の自然数」とするのでも構いません (最小とする必要はどこにも無く、 より大きければ何でも O.K. です)。何故ならば一般に が自然数 に対して成り立つので、 と出来るからです4。(4) が成立している時、 ならば なので、式変形して が得られ、結局 が言えた事になります。以上を命題と証明の形でまとめておきます。

 命題. に対して次が成立する。

 


証明. 任意の に対して なる自然数 を取る。この時、 ならば よって が成り立つ。これは である事を意味している。


 証明だけを上から見ると「いきなり をこんな風に取るなんて思いつかない」と感じてしまうかもしれませんが、実際には (4) を満たすように事前に試行錯誤して、 が成り立つように逆算して を定めている、というわけです。

 もう一つ、簡単な例を考えてみます。

 例題.

 


証明. と置く5。任意の に対して を満たす自然数 を一つ取る。ここで、関数 上で (狭義) 単調増大である事に注意すると6 なる自然数 に対して 即ち が成り立っている。 よって、 ならば が成り立つ。これは である事を意味している。


 証明中の (5) 式はあまりに唐突ですが、これは事前に「 となるように取りたい!」と考えて、これを に関する二次不等式だと思って、 に対して (二次方程式の) 解の公式を用いて導いたものです。しかしこれは「どのようにして証明を思いついたか」という過程の話であって、数学的な証明の中で必ずしも触れる必要はありません。論理的には、いきなり (5) 式を満たす を取ってやれば十分です。

 さて、イプシロン・デルタ (イプシロン・エヌ) 論法を使った上の証明は、厳格ですが少々大仰です。直観的に考えれば、こんな面倒な計算をしなくとも、分子分母を で割って とするので十分そうです。後で、これを正当化するためのいくつかの数学的な準備をします。

数列の ( への) 発散

 やはり として、今度は に発散する場合の定義を与えてみます。

  • 以下が成立する時、 において に発散すると言い、 と表す。
  • の時、 において に発散すると言い、 と表す。

 「 に発散する」という事は「 に限りなく近付く」という事なので、「どんなに大きな を取っても、 を十分大きくしていけば よりも大きくする事が出来る」という上の定義は、数列の収束の時と同様に自然なものと感じられるのではないでしょうか。なお簡単な式変形から、 は次と同値である事が分かります。 なお数列の収束では という記号を使ったのに対してここでは を用いていますが、特に深い意味はありません。習慣的に「 は小さい値」「 は大きい値」として扱われる事が多いから、というだけの理由です。即ち を以下のように書いても数学的には何ら問題ありません。

  に発散する数列の中で最も素朴なものは でしょう。以下は自明かもしれませんが、定義に従って証明を与えてみます。

 例題.


証明. と置く。 を任意に取り、 なる自然数とすると、 の時明らかに である。即ち .


 もう一つ、基本的な例を示します。

 例題. より大きな実数とする時

 

  であれば良いので、例えば であっても の時 に発散します。ポイントはやはり、所与の に対して を満たす をうまく取る事です。 のように がある程度大きい時は、既に扱ったように と取って としてやれば良さそうですが、 が比較的 に近い時には少々面倒です (対数関数を使えば容易ですが、この段階ではまだ禁じ手としておきます)。ここでは二項定理を使った証明を与えてみます。


証明. と置く。また ゆえ、 とすると明らかに である。ここで、二項定理から である事に注意して、任意の に対して なる自然数とすれば、 なる自然数 に対して となる事が分かる。よって .


振動する数列

 上で、 ならば である事を示しました。それでは、実数 以下である場合にはどうなるでしょうか。

 まず、 ならば明らかに です7 の時は、やはり二項定理を使って を示せます (証明は演習とします)。 の時も明らかに であり、 の時も です。まとめると、 となり、 の時の極限の挙動までは分かりました。そこで、 の時について考えてみます。以下 と置いておきます。

 まず の時、具体的に計算してみると となっており、どう見ても収束しているようには見えません。実際、 s.t. ではない事を背理法で示してみましょう。もし であるとするならば、特に に対してある が存在して とならなければなりませんが、しかし の時三角不等式より であり、また である事が容易に分かるので となり、( ゆえ) である事に矛盾します。 よって とした時に如何なる実数にも収束しません。また同様に、明らかに にも にも発散しません (示してみて下さい)。

 容易に分かるように、 は以下の性質を持っています。 ところで、 を定義通りに書き下してやると となります。 言い換えると、「 のどんなに近くにも無限個の 達が存在する」という事になります。 についても同様です。このような性質を持つ点を集積点と呼びます。即ち、 も元の数列 の極限値にはなり得ませんが、 の周りには 達が、 の周りには 達が無数に存在するので、 の集積点である、というわけです。集積点がただ一つの実数に定まる時、 はその値に収束する事になります。

 実は、集積点のうち最も大きいものを上極限、最も小さいものを下極限と呼びます。 とした時の上極限 (下極限) を と書きます。ややこしくなるので今はまだきちんとした定義を考えませんが、上の例では が成り立っています。複数の集積点を持つ数列は において振動すると言います。以上で、 の時に において振動している事が分かりました。

 最後に の場合、やはり よって となる事が分かります。つまり、 を大きくしていくと は「非常に大きな正の値」と「非常に小さな (絶対値が大きな) 負の値」を交互に取りながら発散していく、という事です。この場合も「 は振動する」という表現を用います。

 なお、単に「数列が発散する」と言った場合には「数列が収束していない」事を意味しています。即ち、実数列が発散するとは、数列が振動しているか のどちらかに発散しているかのどちらかであるという事を表します。

まとめ

 今回は数列の極限に関するイプシロン・デルタ (イプシロン・エヌ) 論法を用いた定義や簡単な例について紹介しました。

 本文中でも触れているように、数列の極限を考える際には必ずしもイプシロン・デルタ (イプシロン・エヌ) 論法によって証明しなければならないというわけではなく、かえって計算が面倒になってしまう場合もしばしばあります。

 高校数学では極限に対する加減乗除や挟み撃ちの原理等を証明無しに直観的な理解の下で使用していたと思いますが、それらを (現代数学の枠組みの中で) きちんと証明してやれば、堂々とそれらの方法を使って極限の計算をする事が可能となります。一方、§1 でも書いたように、高校数学のような直観的な理解だけでは計算が難しい (出来ない) 数列の極限もあります。

 次回は数列の極限の続きとして、極限に関するいくつかの性質を調べてみる事にしましょう。


  1. (1)式の無限和の二進小数展開が となるので と等しくなる、という考え方もあります。

  2. 厳密には「 以上の全ての で成り立っている」事を確認しなければならないので、例えば が単調非増大列である事を使って 等とします。

  3. 今後我々が対数関数に出会う (定義する) までの間にどこかで , を使わざるを得ない場面が生じたとしたら、その時点で循環論法となってしまい我々の数学は破綻してしまう事になります。

  4. 実は、「実数 よりも大きい自然数 を常にとる事は出来るのか?」についても自明というわけでは必ずしもありません。この性質はArchimedes の原理と呼ばれ、実数の公理と密接に関係しています。実数の公理についてはまた後の機会に触れるとして、ここでは「自然数は無限に存在しており、いくらでも大きな自然数があるのだから よりも大きな自然数なんて取れるに決まっている」と考えてこれ以上気にしない事とします。

  5. の時に となり不定となってしまっていますが気にしないで下さい。何となれば と解釈して下さい。

  6. 直観的には二次関数のグラフを考える事で分かりますが、直接示すのも簡単です。実際、 を満たすならば ゆえ です。

  7. イプシロン・エヌ論法で示すならば、 に対して をどのように取ろうとも , と出来ます。



※ AMFiL Blog の記事を含む、本ウェブサイトで公開されている全てのコンテンツについての著作権は、一般社団法人数理ファイナンス研究所 (AMFiL) 及びブログ記事の寄稿者に帰属します。いかなる目的であれ、無断での複製、転送、改編、修正、追加等の行為を禁止します。